JSTQBカンファレンス2024 Autumn 2024 参加レポート
目次[非表示]
- 1.はじめに
- 2.テストプロセスの改善 実践の現状、課題、そして得られる価値
- 2.1.講演者について
- 2.2.テストプロセス改善の背景
- 2.3.改善の指針:PPTプロセス
- 2.4.テスト改善モデルの比較
- 2.5.TMMiの優位性と適用状況
- 2.6.TMMiのレベル構造
- 2.7.TMMiレベル2とレベル3
- 2.8.アジャイル開発とTMMi
- 2.9.TMMiの導入効果とメリット
- 2.10.TMMi導入のポイント
- 3.まとめ
はじめに
2024年10月9日に開催された「JSTQBカンファレンス2024 Autumn」にパートナー企業としてご招待いただいたので参加してきました。
今回のカンファレンスでは、「テストプロセスの改善 実践の現状、課題、そして得られる価値 」という講演が特に印象的でした。テスト成熟度モデル(TMMi)を活用したテストプロセスの改善について深く学ぶことができ、自身の業務にどう活かせるか多くの示唆を得ました。
このレポートでは、講演の内容をまとめるとともに、参加者としての所感や今後の活用方法についても記載します。
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テストプロセスの改善 実践の現状、課題、そして得られる価値
講演者について
Erik van Veenendaal
(CEO TMMi Foundation Improve IT Services BVコンサルタント)
Improve IT Services BVの国際コンサルタントおよびトレーナーであり、ソフトウェアテスト、品質、要件工学の分野において著名な専門家です。この分野において数多くの書籍や論文の著者で、TMapテスト手法とTMMiテスト改善モデルの中心的な開発者の一人です。
参考URL:https://jstqb.jp/prinfo/conference2024/
テストプロセス改善の背景
現代社会では、ITが社会の最重要インフラとなり、ソフトウェアはますます大規模化しています。OSやブラウザの多様化、セキュリティの重要性の高まりにより、開発環境は複雑化しています。一方で、開発期間は短縮され、製品を迅速に市場に投入する(Time-to-Market)ことが極めて重要となっています。このような状況下でも、「決して諦めない(Never Give Up)」という姿勢が求められています。
参加者としての所感ーーーーーーーーーーーーー
私自身が関わったことのあるプロジェクトと強く重なる部分が多いと感じました。特に、急速に変化する技術トレンドや多様なユーザー要件に対応しながら、高品質なソフトウェアを短期間でリリースするプレッシャーは日々の業務でも実感しています。
改善の指針:PPTプロセス
テストプロセスの改善を考える際には、以下の3つの側面に注目することが重要です。
People(人)
プロジェクトや業務に関わるすべての人々を指します。適切なスキルを持ち、チームとして効率的に協力できることが成功の鍵です。品質保証(QA)は専門職として確立しており、プロセス改善で最も重要なのは人材の成長です。
Process(プロセス)
プロセスの最適化は品質向上に直結します。現状(As-Is)と目標(To-Be)を明確にし、改善の優先順位を設定することが重要です。
Technology(テクノロジー)
業務をサポートする技術、ツール、システムを指します。最新の技術知識を習得し、活用していくことが求められます。
参加者としての所感ーーーーーーーーーーーーー
PPT(People、Process、Technology)の3つの側面が強調されていたことは非常に印象的でした。特に「People(人)」の重要性について深く考えさせられました。日頃の業務では、どうしても技術やプロセスの最適化に目が行きがちですが、最終的にそれらを活かすのは人であり、人材の成長なくして組織全体の品質向上はあり得ないと感じました。
テスト改善モデルの比較
複数のテストプロセス改善モデルが存在し、それぞれ特徴があります。
TMMi(Test Maturity Model Integration)
CMMi(Capability Maturity Model Integration)に基づいて開発されたモデルで、主なステークホルダーはマネジメント層です。資格認定制度があります。
TPI Next(Test Process Improvement Next)
16のキーエリアを持つモデルで、主なステークホルダーはソフトウェアエンジニアです。資格認定制度はありません。
ISO/IEC 29119
テストプロセスの国際標準規格ですが、テストプロセス改善にはあまり使用されておらず、アジャイル開発にも対応していません。
参加者としての所感ーーーーーーーーーーーーー
複数のテスト改善モデルが紹介され、それぞれが異なるステークホルダーや目的に合わせて設計されていることが非常に興味深く感じました。
私自身、現場でテスト業務に携わる中で、プロジェクト全体の品質向上を図るためには、マネジメント層と現場エンジニアの双方からのアプローチが必要だと感じていました。それぞれのモデルがそのニーズに応えるために設計されていることを知り、自組織でもどのように適用できるかを考えるポイントになると思いました。
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TMMiの優位性と適用状況
TMMiとISO/IEC 29119の関係
ISO/IEC 29119はTMMiレベル2とほぼ対応しており、一部はレベル3ともマッピングできます。つまり、TMMiレベル3を達成すれば、ISO/IEC 29119に完全に準拠したことになります。
適用状況
IEEEの調査によると、テストプロセス改善においてTMMiが49%、TPI Nextが15%の採用率となっています。
TMMi Foundation
2005年に設立され、2010年にTMMiモデルが初公開されました。世界各国に支部がありますが、日本にはまだ支部がありません。
参加者としての所感ーーーーーーーーーーーーー
TMMiレベル3を達成することで、国際規格に完全準拠できるという事実は、組織がTMMiを導入するための後押しになると思います。
また、テストプロセス改善を行っている組織の約半数がTMMiを採用していることに驚きました。
TMMiのレベル構造
TMMiは以下の5つの成熟度レベルで構成されています。
- レベル1:初期(Initial)
- レベル2:管理された(Managed)
- レベル3:定義された(Defined)
- レベル4:測定できている(Measured)
- レベル5:最適化された(Optimizing)
参考:https://www.tmmi.org/tmmi-model/
多くの組織はレベル1に留まっており、レベル2を達成すれば大きな成果として誇ることができます。
各成熟度レベルは複数のプロセスエリアを持ち、各プロセスエリアはゴール(Goals)とプラクティス(Practices)で構成されています。ゴールは必ず達成すべき必須の目標ですが、プラクティスはその目標を達成するための参考情報や成果物の例で、必須ではありません。
参加者としての所感ーーーーーーーーーーーーー
TMMiのレベル構造はシンプルでわかりやすいと感じました。
現状ほとんどの組織がまだレベル1に留まっていることから、まずはレベル2を目標にTMMiを導入していくのが良いと思いました。
TMMiレベル2とレベル3
レベル2(Managed)
プロジェクトマネジメントが中心のプロセスエリアです。プロセス改善の目的を明確にし、そのためにリーダーシップを発揮することが重要です。リーダーとは、人々を鼓舞し、影響を与え、動機付け、組織を構築し、形づくる存在です。このようなリーダーシップがマネジメントの変革に不可欠です。 TMMiはシンプルなモデルですが、実践は容易ではありません("It's simple but not easy!")。
レベル3(Defined)
ソフトウェアテストプロセスを組織全体で標準化することが中心のプロセスエリアです。具体的には、テスト組織の確立、プロセスの文書化、トレーニングプログラムの実施、テストライフサイクルの定義などが含まれます。
レベル2との大きな違いは、開発の早い段階からソフトウェアテストプロセスが参画していく点にあります。
レベル4(measured)とレベル5(Optimizing)
この場では忘れてください。基本的に適用する必要はありません。
参加者としての所感ーーーーーーーーーーーーー
レベル2で求められるリーダーシップの役割については、自分自身のマネジメントスタイルを見直す良い機会となりました。
特に講演者が「リーダーとは、人々を鼓舞し、影響を与え、動機付ける存在である」と述べていたことが印象的でした。これまで私は、プロジェクトの進捗管理やタスクの割り振りに重点を置いていましたが、チームメンバーのモチベーションを高め、主体的に取り組める環境を作ることの重要性を改めて感じました。
アジャイル開発とTMMi
アジャイル開発の課題
アジャイル開発にはプロジェクトの透明性やデリバリースピードなど多くの利点がありますが、「品質」に関する明確な利点は含まれていません。 アジャイル開発にTMMiを導入することで、このアジャイル開発における品質を向上させることができます。
TMMiとの統合
アジャイル開発とTMMiは親和性がよく、アジャイルの文化を維持しながら、TMMiを導入することが可能です。
現在TMMiユーザーの約60%がアジャイル環境でTMMiを使っています。
参加者としての所感ーーーーーーーーーーーーー
アジャイル開発はスピードと柔軟性が魅力ですが、その一方で品質管理が後回しになりがちであるという課題を日々感じていました。
品質はプロジェクトの成功に不可欠な要素であり、アジャイル開発でも適切な品質管理が必要です。TMMiを導入することで、アジャイルの利点を活かしながら品質を向上させることができるという点に大きな可能性を感じました。
TMMiの導入効果とメリット
- 製品品質の向上:ユーザーの94%で品質が向上
- テスト効率の改善:ユーザーの78%でテストの効率性が向上
- コンプライアンスの達成:ユーザーの85%でコンプライアンス要件を達成
- チームのモチベーション向上:ユーザーの61%でモチベーションが向上
TMMiの導入は、多くの企業にとってコストに見合う利益があると言ってよいでしょう。
参考:https://www.tmmi.org/download/tmmi-2nd-world-wide-user-survey-2023/
参加者としての所感ーーーーーーーーーーーーー
TMMiの具体的な導入効果を定量的に見せてもらうことで、その圧倒的なメリットを詳しく知ることができました。特に、ユーザーの94%が製品品質の向上を実感しているというデータには驚きです。日々の業務で品質向上に苦心している立場として、これほどまでに高い効果が得られるフレームワークが存在することは非常に心強いと感じました。
TMMi導入のポイント
ビジネス目的の明確化
プロセス改善はビジネス上の目的から始めるべきです。TMMiを導入する理由を明確にし、テスト改善の目的とその重要性を組織内で共有します。
柔軟な適用
必須なのは目標(Goals)の達成であり、実践方法(Practices)は組織の状況に合わせて柔軟に適用できます。チェックリスト的な導入ではなく、自組織の文脈に最適な方法を選択することが重要です。
シンプルさ
プロセスの文書化は最大で2ページ程度に留め、実践的なテンプレートやベストプラクティスのライブラリを活用していくことが重要です。
ツールの活用
TMMiを導入したユーザーが最初に困るのは、まず何から手を付けるべきかわからないことです。「TMMi Lightning Scan」を利用すれば、何から手を付けるべきかが明確になります。ぜひ活用してください!
TMMi Lightning Scan:https://www.tmmi.org/download/tmmi-lightning-scan-tool/
参加者としての所感ーーーーーーーーーーーーー
「ビジネス目的の明確化」の重要性については、自分たちの現場でも共感できる部分が多くありました。以前、別のプロセス改善を試みた際に、明確な目的や目標が定まっておらず、結果的に効果が出なかった経験があります。その反省からも、まずはなぜ改善が必要なのか、何を達成したいのかを組織全体で共有することが大切だと感じました。
また、「柔軟な適用」や「シンプルさ」のポイントは、実務での導入ハードルを下げるためにも非常に有益だと思いました。過去に、詳細すぎるプロセス文書がかえって現場の負担となり、形骸化してしまったケースもありました。今回、シンプルで柔軟性のあるアプローチが効果的であることを聞き、納得しました。
ツールの「TMMi Lightning Scan」は、シンプルなExcelマクロでありながら、日本語にも対応しており使いやすそうなので、今後使っていきたいと思います。
まとめ
TMMi(Test Maturity Model Integration)は、ソフトウェアテストプロセスの改善と成熟度向上を支援するモデルであり、組織全体の品質向上に大きく寄与します。現代の複雑化したIT環境において、テストプロセスの改善は不可欠であり、People(人)、Process(プロセス)、Technology(テクノロジー)の3つの側面からアプローチすることが重要です。
TMMiは多くの組織で採用されており、その導入により製品品質やテスト効率、コンプライアンス、チームのモチベーション向上といった具体的なメリットが得られています。アジャイル開発環境でも活用可能であり、今後もユーザー数や適用範囲が拡大することが期待されています。
効果的な導入のためには、ビジネス目的を明確にし、組織に合った柔軟な方法で適用することが鍵となります。無料で利用可能なツールやリソースを活用し、リーダーシップを発揮してプロセス改善を推進していきましょう。
参加者としての所感ーーーーーーーーーーーーー
今回の講演を通じて、TMMiの有用性とその実践的な効果を深く理解することができました。特に印象的だったのは、TMMiが組織全体の品質文化を醸成するための強力なツールであるという点です。テストプロセスの改善が単に技術的な問題ではなく、組織全体の意識改革や人材育成と密接に関連していることを再認識しました。
また、アジャイル開発環境でもTMMiが効果的に適用できることを知り、現代の高速な開発サイクルにおいても品質を犠牲にしない取り組みが可能であることに希望を感じました。
講演者の説明は非常に説得力があり、自身の業務にも活かせるヒントを多く得ることができました。
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